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Lee-Byung-hun addicted

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第5話


『Fly me to the moon』 完結編 (5)


「もうふたりとも結構おねむみたいよ。魔法使いさんに後はお任せするわ。」テヒはそういってビョンホンの頬に軽くキスをすると皆が待っているテーブルに駆け寄って行った。
遥とテプンは芝生の上に寝転がっている。
「何やってるの?」ビョンホンはその横に寝転がりながら聞いた。
「あっ、魔法使いだ。」
「えっ?」
遥にそういわれたビョンホンは驚いた。
「だってテヒさんが言ってたの。テプンはどんなにぐずっててもパパがお話をするか歌を歌うとすぐに寝ちゃうって。だからテプンのパパは魔法使いなんだって。」
遥はとても興味深そうにビョンホンの顔を見つめた。
遥の目に見つめられビョンホンは不思議な気分を味わっていた。
何かいつもと違う感覚・・・そうとしか表現のしようがなかった。
「パパ、今日は魔法かけないで。僕、遥お姉ちゃんともっと遊びたいんだ。」
テプンはすがるようにビョンホンに言った。
「わかったよ。じゃあ今日は特別だ、もう少しだけな。」ビョンホンはそういうとテプンの頭を優しく撫でた。
「・・で何して遊んでるんだい?」
「星数え」
「何それ」
「こうやって寝転んで二人ではじっこから星を数えるの」遥は自慢げに言った。
「端っこってどこ?」不思議そうに聞くビョンホン。
「あそこだよ。パパ」テプンが当然のことのように庭の端にある大きな木の上を指差した。
「あ~なんだあそこが端っこだったんだ」
ビョンホンはそういうと無邪気に順番に星を数える二人を見て微笑んだ。そして時々変なことを言っては二人を笑わせていた。
「テプンのパパって面白いね。うちのパパに似てるかも」遥は転がりながら言った。
「そうか?遥ちゃんのパパも面白いの?」
「うん。すぐ変な嘘つくの。」
「どんな?」
「ピーマン食べないと怪獣がスキップして遥を食べに来るとか。くだらないんだけど面白いんだ。」
6歳の娘にくだらないと言われていることを彰介は知っているのだろうか。ビョンホンは可笑しくて声を出して笑った。
「遥お姉ちゃん、うちのパパもおんなじ。トマト食べないとおばけがくるって言うんだ。くだらないね。」テプンは寝転がったビョンホンの背中にまたがって言った。
「こいつ~~~」くだらないと言われたビョンホンは仰向けになりテプンを捕まえると思いっきりくすぐった。
キャーキャー叫んでふざけあう三人。
ビョンホンは二人にくすぐられながら星空を見つめ今の自分の幸せをかみ締めていた。
「あ~もう降参降参。さあ、そろそろ寝ようか」
「やだやだ。まだ寝ないよ。」テプンがふくれていった。
「お前、まだ眠くないの?」
「うん。全然。それに今日は遥お姉ちゃんと寝るし」嬉しそうにテプンは言った。
ビョンホンはそれを聞いて苦笑いした。(こいつ年上好みなのか・・)
「でももう遅いからな」
「じゃあ、パパお話してよ。何か面白いの」
「私も聞きたい!」と遥。
「じゃあ、ひとつだけな」
そういうとビョンホンは星を見上げながら静かに話し始めた。
「遥ちゃんとテプンは昼間にお月様を見たことがある?」
「えっ、昼間にお月様が見えるの?」
「ああ。僕たちには時々しか見えないけれど本当は昼間だってお月様は空にいるんだ。今日はそんなかくれんぼ好きのお月様の話をしようかな。」
「あ、本当だ。テプン寝ちゃった。やっぱりテプンパパ魔法使いなんだ」そういうと遥はにっこりと笑った。
ビョンホンがそう言われ隣のテプンを見るともう彼は寝息をたててぐっすりと眠っていた。
ビョンホンは優しげに微笑むと自分の着ていたシャツを脱いでテプンに掛けた。そして話し続ける。
「遥ちゃんはお月様好きかな。」
「う~ん。うさぎさんがいるから好きだけど、お月様が出ると眠くなっちゃうからな・・。遥はいっぱいお外で遊べるからお日様のほうが好き。」
「そうか・・。昔ね。お日様は自分のお仕事に一生懸命で昼間にお月様や星さんがいるなんてこと気にしたことがなかったんだって。でもある日、小さな星さんたちが話しているのを聞くんだ。
「夜のお月様はとっても働き者でとっても綺麗だよね。この間は道に迷った村人を月明かりで照らして助けてあげたらしいよ。その前は寂しくて夜ずっと泣いている人を一晩中慰めて見守ってあげていたんだよ。お月様ってとても優しくて一緒にいるとホント楽しいよなぁ」
そんな話を聞いてお日様はお月様がとっても気になりだした。お月様が楽しそうで羨ましくて仕方がなくなった。それで一度話してみたいと思ったんだって。でも恥ずかしがりやのお月様は隠れてなかなかつかまらない。
ある日の夕方、やっとお月様に会ったお日様は言ったんだ。
「君はどうして夜は光り輝いているのに昼間はそんなに隠れているんだい?僕はこんなにいつも一生懸命働いているのに星君たちや君は誰も僕のそばに寄ってこないし声さえかけてくれないよ。いつも僕は一人ぼっちなんだ。君はいいな。みんなと一緒に光り輝けて。羨ましいよ。もう僕一生懸命働くのが嫌になってきた。」
そうしたらね。お月様は答えたんだって。
「私が輝かなくても昼間はあなたがいるからとっても明るいでしょ。それに私たちは昼間輝いてはいないけどちゃんといつもあなたのことを見守っているんですよ。それにね。知ってました?私や星さんが輝いているのはあなたの光があるからなんですよ。だからあなたは一人ぼっちじゃないし、みんなあなたが大好きなんです。」そしてお月様はにっこり笑ったんだって。
・・・で太陽はみんなのためにまた毎日元気に頑張ることにしたんだって。だからはるかちゃんも朝からお外で遊べるわけだ。お月様に感謝しないとね。」
「・・・・・」さっきまで聞いていたのにいつの間にか遥もビョンホンの傍らで寝息を立てていた。その天使のような寝顔を見つめながらビョンホンはやはり不思議な感覚に囚われていた。遠く懐かしい感じ・・・。ビョンホンはまだそれが何であるのか気がつかなかった。

翌日、彰介たちはソウルのウナの実家に挨拶に行くと言って旅立った。テプンは遥との別れを泣いて悲しがった。そして別れ際必ずまた会うことを約束した。
次に二人が再会したのは13年後のロサンゼルス。遥19歳 テプン16歳だった。


「母さん!僕だよ。ねえ、ビッグニュース。今日高校に行ったら誰に会ったと思う?遥、遥がね、いたんだよ。ねえ、ビックリだろ」
テプンは興奮しながらテヒに電話を掛けてきた。
「えっ、誰?」
「だから、遥ちゃんだよ、彰介おじさんのところの。ねえ、聞いてるの?」
「そう。それはすごい偶然ね。で遥ちゃんは元気?」
「うん。彼女も驚いてたよ。まさか僕がアメリカの高校に入学するなんて思っても見なかったって。彼女は大学生のアルバイトでうちの先生の助手をしてるんだ」テプンはとても嬉しそうに話した。
「そう。じゃあ、母さんからもよろしくって伝えてね。」
「わかったよ。あっ、父さんにも報告しといてね。じゃ、切るよ」

電話を切ったテヒは正直運命の悪戯に驚いていた。これも揺が仕組んだことなのだろうか
何か意味があるんだろうか。
今まで避けて通ってきたことがこんなことになるなんて。
テヒはここ数年連絡していなかったウナに電話を掛けていた。

「もしもし、ウナさんですか。あのテヒです。わかりますか?」
「えっ、テヒさん?もちろんわかりますよ。お元気ですか?」
「ええ、そちらも皆さんお元気ですか?」
「はい。でも、急にどうしたんですか」
「あの・・・どうしましょう。ごめんなさい。私がうかつでした。あの子がロスの高校に行きたいと言ったとき反対するべきだったんです。」
「もしもし、テヒさん落ち着いて。何があったんですか?」
「今、今年アメリカの高校に入ったテプンから連絡があって今日遥さんに会ったって。あの広いアメリカで何で会ってしまったんだろう。こんなことならウナさんにお願いしておくんだった。」
「もしもし、テヒさん、会っただけなら何も・・・」
「ウナさん。私があの日以来なるべく二人を会わせないようにしていたのはテプンの初恋の人が遥さんだからなんです。3歳だったのに、あの日以来彼は遥さんのことを忘れたことはないでしょう。何度会いたいとせがまれたことか。そのたびにずっとごまかしてきたんです。でも、今度はダメかもしれません。やはり真実を話す時が来たのではないでしょうか。もうすぐビョンホンさんが帰ってきます。彼にも20年間隠してきたことを話さなければならないのでしょうか。時間が経ってしまっただけに私一人の手に負えない気がして。もう、橘のお父様もお母様もいらっしゃらないし。彰介さんとウナさんしか頼れないんです。」
「わかりました。彰介と急いで相談して連絡します。それまで待っていてもらえますか」
「ええ。よろしくお願いします。」
テヒがそういって電話を切ると同時に玄関のインターホンが鳴った。
「ただいま、今帰ったよ」
ビョンホンはそういいながらリビングに入ってくるとテヒの頬に軽くキスをした。
「今日は楽しかった?何か変わったことなかった?」彼は微笑みながら聞く。
「ええ、とってもいい一日だったわ。そうそう。さっきテプンから電話があったわ。あなたによろしく伝えてって」
テヒはどうしても素直にビョンホンに話すことが出来なかった。
「そっかぁ~元気そうだった?」
「ええ、とっても。それよりあなたはお仕事いかがでした?」
「ああ、映画館のオープンの準備も順調だ。それに今日、先日オファーがあった新しい映画の脚本が届いたんだ。今夜から読むことにするよ。」
「映画館のお仕事の方も忙しいんですからあまり無理なさらないでね。」
「ああ、わかってる。でも、ジウン監督の作品だからどうしても出たくてね。」ビョンホンはそう言ってテヒの肩を叩くと着替えをしに部屋に向かった。
テヒは頭を抱えた。あんなに忙しくしている彼にプライベートでも問題を背負わせるわけにはいかない。揺さん、どうしたらいいの。私は初めてあなたを恨んでしまうかもしれない・・・テヒは心の中でそうつぶやいた。

ビョンホンはネクタイをはずしながら考えていた。
自分が作った映画館が半年後オープンする。一番最初にかける映画を何にするか。
30年以上俳優という仕事を続けてきて自分の主演作品もずいぶんな数になった。賞をとった作品もあれば思い入れの強い作品もある。自分の出ている作品以外でも大好きな映画はいっぱいあった。何を基準に選ぶか・・・観客が喜んでくれる映画。自分が観客に見て欲しい映画。・・・・・・一人の人のためにかけたい映画。何度考えてもそこに行き着く。
彼女がこの世を去ってからもう20年が経とうとしていた。大切な妻がいて息子がいる。この16年充分過ぎるほどに幸せだった。でもそれでもやっぱり君の事は忘れられない・・
窓の外の月を見ながらビョンホンはそうつぶやくと自分の胸を二回叩いた。





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